この体験記をお寄せいただいたK様は、東大の大学院生の方です。
卒業を記念してアフリカ旅行にお出かけになりました。
ご要望をきめ細かくお伺いして、スケジュールを組ませていただきました。
とても良いご旅行になったようで、私どももたいへんうれしく思います。
アフリカ、ケニアへの旅。広大な草原で過ごす5日間は忘れられないものとなった。出発前は水や感染症を恐怖したが、実際に現地へ赴いてみるとミネラルウォーターも十分に手に入り、マラリアや黄熱病を媒介するハマダラ蚊は見当たらなかった。サファリへの旅行に慣れた西欧人のなかにはTシャツ、短パンという姿も散見した。
サファリとして知られる国立公園で私達が見たのは、まさに大自然だった。白雲が浮かぶ青い空と原始的で力強い草原、そのなかで悠々と生きる動物たちの姿。最初に訪れたナクル湖では、シマウマ、バッファロといった中型草食獣が僕らを出迎え、ドライブを進めるとキリンやフラミンゴが見えてきた。そして、ここでしか見られないサイとも出会い、めったに見られないライオンまでもが水辺で寝そべり、彼らの生活を私達に見せてくれた。これらの動物は日本の動物園でも見られるだろうし、国内のサファリパークと似たものと思うかもしれない。しかし、断言する。段違いである。
最初、私はナクル湖は広い公園だな、と感じていた。
しかし、ナクル湖を見ていた僕らにドライバーはこう言った「ナクルはほんの小さな公園で、マサイマラは比べ物にならないほど大きい」と。私達は期待を膨らませてマサイマラへと向かった。
結論から言えば、ドライバーは正しかった。
その広大さゆえ、マサイマラではフルドライブと呼ばれる、ランチボックスを持参して朝8時から午後4時頃までのあいだ、大草原を双眼鏡片手に進むというプログラムをこなした。
このおかげで、ゾウ、キリン、ライオン、カバ、ワニと、サファリの豪華なスター達と遭遇することができた。
3日目のことだ。私達は午前中に偶然、チーター3頭が休んでいるところに遭遇した。母親と子供らの組み合わせだ。チーターの子供は1年で独り立ちするらしく、出会えるのは非常に珍しいとのことだった。私達は大いに興奮し、写真を撮った。チーターは車を怖がらない。そのまま気にもとめず、しばらく休んでいるのだろうと思い、ドライバーに進むようお願いした。しかし、彼はチーターをじっと見てこう言った。
「狩りを始めるかもしれない」と。
数分後、チーターはすっと頭をあげ、遥か遠くを睨んだ。
僕らには見えない。そっと立ち上がる。二頭の子どもがそれに続く。狩りの始まりだ。音もなく、ゆっくりと草原を歩んでいく、いや、音はあるのかもしれない。けれど、吹きすさぶ風の中では聞こえない。匂いを気にしてだろうか、彼らは風を逆らって進んでいく。
5分後、遠方にガゼルが見えてきた。そう思った次の瞬間、彼らは矢のように飛び出し、体をしならせながら、猛スピードで突っ込んでいく。ねらいはこどものガゼルだ。まだ、気付かない。息をのんだ次の瞬間、母親の一撃が子供ガゼルを捉えた。ドライバーはすぐにアクセルを踏み、近寄る。ガゼルは倒れ、虚ろな目で空をみあげていた。
ケニアはたくさんのことを教えてくれた。太古から続く厳しい自然界、共生するマサイ族の暮らし、近代化を推し進め、優雅に暮らす私たちも、たったひとりの非力な人間であること。私は10年後にもういちどケニアを訪れたい。あの空間はきっと、いまの私が感じることができた、純粋で健全な精神を、そっと蘇らせてくれるに違いない。
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